びあぶれいく
Orion
東 陽一さん 東 陽一さん
映画「風音」2004年 沖縄先行公開予定 沖縄の息づかいが聞こえてくる
日本映画界の重鎮・東陽一監督が、芥川賞作家・目取真俊さん原作・脚本の「風音」を映画化。十一月二十三日〜二十四日、沖縄で先行試写会が行われた。どんな映画なのか、制作時のエピソードを交え、全国封切前にインタビュー。
きき手・寺田 柾
東 陽一さん
寺田 まずは乾杯といきましょうか。
カンパ〜イ
撮影中はたくさんのビールの差し入れありがとうございました。大変おいしくいただきました。
寺田 それは何よりです。ところで監督、「沖縄列島」から何年になりますか。
もう35年になりますね。あの頃は祖国復帰運動が盛んな頃でね、沖縄の映像というと政治的なものか古典や民俗学的なものしか入ってこなかったんですよ。僕はそういうものじゃなくて、普通の人が生きている現場を見たかったんですよ。それで自分の見たい映画を作ろうと思って撮ったんです。
寺田 では「風音」は35年ぶりの沖縄をテーマにした映画だったんですね。どういったキッカケで撮ることに?
目取真さんの作品やってみないかとプロデューサーから声が掛かったんですよ。でも僕はその時「水滴」('97年芥川賞)くらいしか、読んでなくて、それから出てる作品をずっと読ませてもらったんですね。小説としては大変優れているんですが、映画にするのは難しい。文学としてイメージ豊かに書かれている分、映画にするのは難しいなと思っていたら、目取真さんが脚本を書くということになったものですから、それなら是非、ということになったんです。それと「沖縄列島」で僕の映画人生が始まったでしょ。若気の至りみたいな部分もあって、借りがあるような気がしてたんです。それをどこかで返したいというのもあって、もう一度沖縄を撮りたいという気持ちが沸々と強くなってたんですよ。
寺田 僕は試写会を見せて頂いて、全体がドーンと押し寄せてくるような重みを感じたんですが。
そうですか。見る方によって捉え方が違うんでしょう。子役のお母さんなんかは楽しいだけの映画と思っていたら切ないところも両方ある映画ですねって言ってましたよ。名護でも試写会やったんですが、ゲラゲラ笑ってましたよ。終りの方では涙を流してる人もいたし、とてもいい雰囲気でしたね。
寺田 でも決して娯楽映画ではない?
いや娯楽映画ですよ。インテリはすぐ難しい映画にしたがる(笑)、難しくないです。泣くとこがあって笑うとこがある娯楽映画として見て欲しいと思ってます。
真夏の沖縄でのロケ
寺田 今度の映画でご苦労されたのは?
苦労というほどではなかったけれど、動物さんにいうことをきいてもらったりね(笑)。でも一番辛かったのは暑さですね。ずっと外にいる訳で、体験したことのない暑さでしたね。スタッフが一人倒れて三日間くらい寝込みましたよ。だから現場には水と塩を必ずおいて、塩なめて、水飲んでという風にやってましたよ。
寺田 キャスティングはスムーズにいったんですか?
沖縄の俳優さんたちにも登場してもらってます。ただ主人公の当真清吉役だけは、どうしても海人から捜したかったんですよ。でも実際の海人に会ったって冗談じゃないよと断られる訳ですよ。この役を決めるのが難航しました。優れた俳優は沖縄にたくさんいらっしゃるんですけど、でも、例えば、海人が潜って魚を獲るシーンなんかを撮ろうと思うとやっぱり普通の俳優さんじゃ無理がありますよね。生身の人間の面白さを表現したかったんですよ。あと、子供のオーディションも大変でした。
寺田 子供たちがイキイキしていてアドリブじゃないかと思った位ですよ。
それを聞くとホッとしますね。あれは一ヶ月以上の特訓の成果です。何を特訓したと思います?方言ですよ。なんで沖縄の子供達に方言指導しないといけないかと思ったんですけどね(笑)。僕らより上手な標準語を喋るんですよ。
寺田 そうですね、最近の子供たちは方言を喋りませんからね(笑)。来年の春、上映予定ですよね、監督から何かメッセージがありませんか。
いやぁ、面白いから見てください(笑)、ってことですよ。コバルトブルーの海と珊瑚礁の癒しの島ということではなく、わりと普通の沖縄をつかまえたいと思って撮りました。原作とは又、違う目取真さんの優れたシナリオのイメージが伝わればなと思っています。
寺田 わかりました。今日はどうもありがとうございました。

映画1シーン 東さんと俳優さんたち 東さん寺田さん
主役の当真清吉を演じた70才デビューの上間さんをはじめ子供たちやベテラン俳優の味わい深い演技が見もの。 映画は僕の楽しみ。撮ってない時の方がシンドイよ。年を意識したことはないね。企画があればいつまでも撮り続けるよ、と東監督。
東 陽一 PROFILE

早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。長篇第一作は「沖縄列島」つづく「やさしい日本人」で映画監督新人賞、「サード」で芸術選奨文部大臣新人賞、キネマ旬報監督賞などを受賞。近作「わたしのグランパ」はモントリオール世界映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞。

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